「作品を通してわれわれの考え方を感じていただけることが、書き手としては一番の幸福です」

 第86回は黒木あるじ・深町秋生・吉村龍一の講座出身作家各氏をお迎えして、三氏それぞれの作品に対する考え方や、受講生時代に講座で学んだことなどについて、お話していただきました。

◆東北人の怪談観/ハートフルかハートレスか/パーソナルな彼岸の人々

深町 さて、今回はおなじみの黒木あるじさんが講師ということで、後半はフリートーク的な感じでいこうと思います。

黒木 不安ですねえ。普段から迷走しがちな我々のおしゃべりが、はたしてこのような場で聞くに耐えるものになるのかという(笑)。どう頑張っても脱線続きになるかとは思いますが、それはそれで貴重な機会と諦めてもらえれば嬉しいです(笑)。

深町 講座出身の人間がこれだけ雁首そろえる機会もそんなにないですから(笑)。まずは黒木くんの、最近のめざましい活躍についてお話を聞いていきますか。

吉村 黒木さんといえば怪談でデビューして、非常にたくさんの本を出しているわけですが、この『無惨百物語 みちづれ』(角川ホラー文庫)は、いつの作品でしたっけ。

黒木 1年前ですね。その後は『怪談実話傑作選 弔(とむらい)』(竹書房文庫)、『怪談実話 終(しまい)』と、続けて刊行させてもらいました。

吉村 黒木さんの作品はですね、すごく読ませるというか。テーマは怪談なんですけど、単にお化けが怖いという話ばかりではなくて、この世とあの世の境目がすごく身近なものとして書かれています。忌まわしいものではなく、どこか懐かしいような、切ないようなテイストの作品があって、心温まるものがあるんですけど、そういうものを書こうと思われたきっかけみたいなものはありますか。

黒木 当然ながら、僕の取材場所は山形を中心に東北が多いわけですよ。すると面白いことに、怪異を怖がってはいても、それでお祓いだとか除霊だとか、そういう話にはなかなかならない。「あの場所はケガレていて、Aさんはすぐに引っ越した」みたいにはあまり展開しないわけですよ。「そういうこともあるべな」ぐらいのファジーな結論に、ふわっと落ち着くんですね。それを無理くり怖くしても齟齬が生じるので、そういう話は怖さのツボを大切にしつつ、ほっこりした感じにまとめますね。ただ、いま吉村さんが挙げてくださった『無惨百物語』シリーズはその対極にあって、名前どおり無惨な、むごたらしくて後味が悪くて、嫌な話を書くことにしているんです。震災のあった2011年に第一弾『ゆるさない』(MF文庫ダ・ヴィンチ)を書く際、震災で日本中が「絆だ」「美しい日本人だ」と騒いでいるのが腹立たしく、それに対しての反抗のような形で書きました。個人的には宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」で、主人公のゴーシュが「インドの虎狩り」という曲を弾いているときのような気分ですね。で、それから『にがさない』『はなさない』『ておくれ』と続いて、5冊目が『みちづれ』です。あんまり夢見がよろしくない、ハートフルではない、ハートレスな話を書いています。

吉村 他のシリーズも合計すると、いままで1500話ぐらい書いているわけですか。

黒木 そのぐらいのはずですね。1000話を超したぐらいから、僕は数えることを放棄しました(笑)。

吉村 ハートレスな本に続きましては、今日も会場で販売している『渚にて あの日からの〈みちのく怪談〉』(荒蝦夷)を紹介します。こちらは「東北怪談同盟・編」ということで、共著のアンソロジーですね。

黒木 そうですね。こういう講座のときは、自分の単著をお持ちするのが正しいんでしょうけど、これは僕を中心として東北出身の若い書き手で結成された、東北怪談同盟というグループによる本です。実は今日も、同盟の作家が2人ほど講座に参加しているんですけど。東北在住、もしくは東北にゆかりのある作家が書いた、震災怪談の本ということで、僕にとっても非常に思い入れが強い本ですので、このような形でご紹介させていただきました。

吉村 これは、テイストとしてはハートフルな部類ですね、どちらかといえば。

黒木 吉村さんは、心臓があるかないかにこだわりがあるようですが(笑)、どちらかといえばハートが多めです。

吉村 この中で印象的だったのが、堤防に釣り人がいっぱいいるんだけど、車は2台しかないという話でした。怖い、というよりも、切実さを感じますね。

黒木 僕は母方の実家が釜石市の鵜住居(うのすまい)という、震災で大きな被害を受けた場所なのもあって、ずっと被災地に通っているんですけど、基本的に被災地で語られている怪談というか、生者と死者の物語というものは、怖さからは一番遠いところにあるんですね。というのは、亡くなった人がパーソナルな存在なんです。どこどこさんちの奥さんだとか、なになに小学校の子たちだとか、自分の身近な人なので、もう一度会えたという気持ちのほうが強いんですね。なので、恐ろしいとか怖いという気持ちとは離れたところにあるんですけど、そういう話も時期によって変容するので、できる限り書き留めて記録したい、と思っています。とはいえライフワークといった大げさなものとは思ってませんで、自分の興味のおもむくままに、今でも被災地に通っては集めています。

◆さよならの向こう側(?)/レディオ・ガ・ガ/母の捧げるバラード

吉村 今まで怪談を書き連ねてきた黒木さんですが、この新刊『怪談実話 終(しまい)』(竹書房文庫)で一区切り、ということでいいんでしょうか。

黒木 それはですね、非常に誤解を受けているところでして。この『終』という本ですが、デビュー作から竹書房文庫で出してきた『震(ふるえ)』『痕(しるし)』『叫(さけび)』『畏(おそれ)』『累(かさね)』『屍(かばね)』『弔(とむらい)』『終』という一連のシリーズが、いちおうの一区切りを迎えたということなんです。このシリーズも、ずっと惰性でやっていくのもどうかと思い、一回ちょっと閉じて、また新しいアプローチを考えさせてね、ということで。ちょっとだけ深呼吸させてよ、ということで『終』というタイトルをつけたんですけど、どうもね、みなさん僕が怪談の世界から引退して、マイクを置いて去っていくように思ってるみたいなんです(笑)。

吉村 山口百恵ね(笑)。

黒木 読者からのメールでも、「寂しいけどまた戻ってきてください」とか「いつの日かまた会えるのを待ってます」「忘れません」とか、そういう反応があるんですね。だから、また怪談を書いたら、引退宣言と復帰を繰り返すプロレスラーみたいになっちゃうんじゃないかと思って(笑)。

深町 大仁田厚かよ(笑)。

黒木 そうそう、お前いなくなるって言ってたじゃねえか、みたいな(笑)。だから非常に困ってはいるんですけど、怪談に関しては、また新しいアプローチにトライしたいですね。2010年にデビューしてから、7年書いて1500話ですから。正直なところをいうと、手癖がつくんです。

深町 フォーマットみたいな?

黒木 そうですね、テンプレートが自分の中でできちゃうんです。そこに慣れると、やっぱりダメなんですよ。とてもよろしくないですね。自分の中で「ここが怖さのツボだろう」「こういう展開だろう」というのが、一個一個悩まずにやってしまうと、中には「面白かったです」「怖かったです」という読者さんもいるんですけど、こういうのはラーメン屋と同じで、まずかったからって「まずかったぞ! じゃあな!」って帰る人はあんまりいないわけです。ごちそうさん、とか言って、心の中では「多分もう来ねえな」で終わっちゃう。それが書き手としては一番怖いですね。もう一度「怖さ」とは何かを考えたいなと思って、シリーズを閉じたような次第です。

吉村 この本の中で、私が一番好きなのは「同級」という話ですね。簡単に説明しますと、亡くなった同級生を思いながら、年に一回集まるんだけど、そこでがたがたと何かの気配がして、「アイツが来てるんだな」ということで、ビールを一杯、陰膳みたいな感じで供えて、毎年飲むというところからラストにつながっていくんですけど、それがすごく心に残る作品でした。そこからの展開がまたすごいので、みなさんぜひ本を買ってお読みください。

深町 『終』は本当におすすめですね。円熟味が増したというか。俺も、黒木さんはこれで怪談を引退したものと誤解してましたが(笑)。

黒木 その誤解はね、ぜひともここで解いておきたいです。繰り返しになりますが、このシリーズに一段落つけただけで、別に「やらない」と言っているわけではないんですけど、おかげで、やりづらいんです。先ほど言っていたような、引退するする詐欺じゃないかと思われていますが、そうではない。ひとつのシリーズが終わっただけで、怪談はこれからも続けていければいいなと思っています。ただ、他のこともやりたいなという気持ちになったわけです。

深町 黒木さん的には、そもそもラジオパーソナリティの顔も持っているし(おらんだラジオ「黒木あるじの異界遺産」)、本当にいろいろやっていますよね。

黒木 それもちょっと説明しておこうかな。長井市にある、おらんだラジオというコミュニティFMで番組を持っています。「おらんだ」というのは「おらだづの(私たちの)」という意味でつけた名前だそうですね。そこで、昔つとめていた会社から「番組を一本、手伝ってくれ」という要望に従ってですね、「黒木あるじの異界遺産」という、ただただ怖い話をして、それについて駄弁るという番組を始めたわけです。長井市でしか流れないならいいか、という気楽な感じでやっていたんですね。外部に自分の恥ずかしい声が漏れることもないから。そうしたらある日ですね、YouTubeに番組公式でいっぱい載っちゃっていたんですよ(笑)。

深町 あれって公式なんだ(笑)。

吉村 それは、ラジオ局のほうでアップロードしているんですか。

黒木 局のほうというか、もと勤めていた、うちの会社ですね。そこがスポンサー的なところなので。ネットに上げちゃって、全世界に発信されることになってしまって。頼むから、何か不祥事を起こしてアカウントが消されないかなと思ってるんですけど(笑)。

深町 「このハゲー!!!」的な何かを(笑)。

黒木 そういう暴言のたぐいでね、消さざるを得なくならないかなと思っていますが。だからまあ、パーソナリティというか、ちょっとおしゃべりさせてもらってるぐらいです。

深町 そういうのは苦にならないほうですか。

黒木 番組には付き合いの長い相方もいますし、わりと気楽な感じでやらせてもらってますね。

深町 30分番組の、ネタも毎回自分で考えたりとか?

黒木 朗読が一本あるんですけど、その後のトークはそんなに真面目に話さないんですよ(笑)。どちらかというと小学生のおしゃべりに近いレベルのアホなネタをやんわりしゃべって、30分が終わるという感じのひどいラジオです。いま必死にメモってらっしゃる方がいますけど(笑)、ぜひそこに傍線を引いて、忘れてもらえればと思います。要は、執筆にはまったく貢献しない活動といえます(笑)。

深町 ちなみに私の父も、同じおらんだラジオでパーソナリティをやっていて、昼間に3時間しゃべっています。

黒木 この方のお父さんはね、いろいろやる方なんですよ。アナタの後を追うようにどんどん出世していらっしゃる(笑)。そうそう、みなさんも書き手になりたい、小説家志望だという方が多いかと思いますが、ひとつだけ覚悟しておいていただきたいのは、デビューして本が出るとですね、こちらが困るぐらいに、親を中心とした親族がハイテンションになります(笑)。恥ずかしいのでやめてくれ、と言うんですけど、謎の盛り上がりを見せるんです。うちの親は、僕が最初の本を出したときは「いやあ、お母さんこういう怖いのダメだわ」とか言って終わってたんですが、2冊目が出たあたりから「こいつ、モノになるんじゃねえか」と、ゆるい確信を持ったようなんです(笑)。それで、新刊が出るたびに、地元の新聞社に送りつけているらしいんですよ(笑)。コネもなく突然送って、いきなり電話して「届きましたでしょうか?」って。僕は一時期月刊誌のように本を出していた時期があって、毎月『叫』だとか『ゆるさない』だとか『無惨』だとか、忌まわしい感じの本が嫌がらせみたいに届くわけですよ(笑)。あと、自分でPOPを作って本屋に持っていったりとか(笑)。地元の本屋から、僕に「この間はPOPありがとうございました」って連絡がきて、自分はぜんぜん知らないから「えっ、どういうことですか?」って言ったら「可愛らしいお化けちゃんの絵が描いてあって」とかいわれるんですよ。
 ですから、みなさんもね、ぜひデビューして、僕や深町さんと同じ生きづらさを味わってほしいと思います。

◆『掃除屋』誕生秘話/虚実の世界の悲哀/「ありがとう、プロレス」

深町 そんな黒木さんですが、急に娯楽方面に来られて、集英社の「小説すばる」でプロレス小説『掃除屋(クリーナー)』を書き始められて、びっくりしたんですけど、なぜプロレスなんですか。

黒木 「来られて」って、そんな迷惑そうに(笑)。ええと、プロレス小説を始めた経緯から言いますと、この講座にもいらっしゃってる、小説すばるの横山さんと別件でお仕事をさせていただいたご縁で、昨年末に短篇の依頼をいただいたんです。
 で、短篇を一本書いたら、ありがたいことになかなかウケがよかったようでして。そのときは「占い」というテーマがあったんですけど、次はノンテーマで一本どうですか、と言われたんですね。そこで、ホラーとか怪談を書く選択肢もあったんですが、自分ではちょっと別なアプローチがしてみたかったんですね。僕はこういうジャンルですよ、というよりも、ちょっと横幅を広げるというか、相手をびっくりさせる意外なタマを投げてみたいなと。向こうから「こういうもので」というオーダーが来ていない以上、こっちも、相手の知らない必殺技を出したほうがいいだろうと思いまして。
 僕は昔からプロレスが好きなんです。5歳ぐらいからずっと見続けていて、山形県内と、あと仙台でやる試合はけっこう観戦に行ってるんですよ。プオタ仲間と酒田まで、野郎ふたりで蛍光灯デスマッチを見にいったりするぐらい好きなんです。だったらそこを書こう、というのでプロレス小説を書いて、ただ「これじゃダメです」と言われたら困るんで、締め切りのギリギリにさっと送って(笑)。そのとき、ちょっとラストを「つづく」っぽくしたんですが、そうしたら編集長から「お前どういうことだ」っていう、やんわりとしたメールが来て(笑)。「続けたいのか」という話だったんで、続き物にしたいなという話をしたら、いいですよということで、今月号が第3話です。年内にあと2話書く予定です。

深町 『掃除屋』は、ロートルのプロレスラーが主人公なんですけど、トラブルを起こした若手レスラーを、リング上で指をアレしたりして壊すという。

吉村 「アレしたり」(笑)

深町 本来、プロレスって相手に怪我をさせないようにしつつ、激しいファイトを見せるという、肉体を使った一種の過酷な演劇、といったらちょっと語弊があるんですが、格闘技とはちょっと違うところがあるんですけど、そういった格闘技とショーのギリギリのところで見せる、男たちのせめぎ合いが描かれていますね。プロットも見事に作られていますし、早く本になるのを楽しみにしています。

吉村 プロレス小説、っていままでありましたかね。

黒木 あ、けっこうありますよ。僕はプロレス小説コレクターなので。先月いらした夢枕獏さんも多数お書きになられてますし、ほかには今野敏さんの『ドリームマッチ』(徳間文庫)や、永瀬隼介さんの『ポリスマン』(幻冬舎文庫)もあります。あとは生島治郎さんの『ザ・格闘者(プロレスラー)』(徳間文庫)や堂場瞬一さんの『マスク』(集英社文庫)、伯方雪日さんの『誰も私を倒せない』(創元推理文庫)、あとは女子プロレスなら、つかこうへいさんや桐野夏生さん、短編では船戸与一さんの「からっ風の街」とか中島らもさんの「お父さんのバックドロップ」とか。あ、今年の「オール讀物」1月号には、行成薫さんの「先生のムーンサルト」という素晴らしい短編が掲載されていますね。と、まあほかにも錚々たる面子が書いていて、僕の本棚にはプロレス小説だけを扱った棚があるぐらいなんです。題材として魅力的なんでしょうね。リングには勝敗とはまた別の悲哀があるし、マスクマみたいに存在そのものが虚実のあわいにあるレスラーもいる。あとプロレスって、ふつうのスポーツに比べて引退する年齢が高いんですよ。それこそ還暦でもやってる人がいる世界ですから、やりようによっては、身体をだましだましでも長年続けられる。ただ、そこにはいろんな葛藤があったりするんですね。で、今回僕は、50歳を過ぎたレスラーを主人公にしました。かつてはある団体のエースだったんだけど、ある理由からフリーランスになって、いつもはコミカルな試合をやっているものの、いざというときには「仕置人」的な依頼を受けて、自分は負けるんだけど対戦相手の腕をバキッとやったり、爪をベリッとやったり、肩をボロッとやったりするレスラーにしたんです。で、話が進むごとに、主人公が長年のダメージでボロボロになっていく姿を描いています。

深町 そうそう、そこが本当にうまくて、主人公が座薬の鎮痛剤を常に使っているので、尻がゆるくなってオムツをつけて寝る描写とか、映画の『レスラー』(2008年米国、ダーレン・アロノフスキー監督、ミッキー・ローク主演)を思わせるものがありました。シリアスな部分もありつつ、いままでの怪談でもみられた抒情性だとか、独特の人情とか、面白いですね。

黒木 スポーツであり興行であり、競技でありエンタテイメントである、その自由さがプロレスを豊かな娯楽にしていると思うんですね。そして、観客は勝敗だけではなく、選手のバックボーンや人生が浮かび上がる瞬間も試合に求めている。虚構のなかで真実が閃光のようにまたたく瞬間がある。それを書きたくて、いまヒイコラ言いながら書いています。「小説すばる」の3月号、6月号、8月号に載っていますので、ぜひみなさん、バックナンバーを取りよせて、お読みになって、そして集英社にハガキを送ってください(笑)。

キノブックス 善元温子氏 いま「ダ・ヴィンチ」に黒木さんのインタビューが載ってますよね。プロレス特集号で、プロレス好きな作家さんのインタビューがいろいろ載っていますので、これもみなさんぜひお読みいただきたいです。

黒木 いまプロレスって、新日本プロレスを中心に盛り上がっていますので、どこの雑誌でも特集を組んでるんですよ。「an・an」でも、「number」でもやったし、別冊カドカワでも去年やってる。そんな中で「ダ・ヴィンチ」も「ありがとう、プロレス」という特集をやるというので、知り合い経由で「プロレス好きだと聞きましたが、どう好きなんですか」とお話をいただきまして。それこそ10行か20行のインタビューなんですけど、向こうから来た電話に1時間半しゃべりましたね。どれだけしゃべり倒してやろうか、切らせまい切らせまいとして。思いのたけを伝えたい、というただその一念でした。

深町 ふつうは、逆にたどたどしくなりそうなところですけどね。

黒木 プロレスや怪談や怪獣や妖怪の話は、止まりませんね(笑)。

吉村 深町さんは、どの年代のプロレスが一番お好きですかね。

深町 そこを掘り下げても(笑)。全日本プロレス四天王時代(1990年代前半~中盤)とかになるんですけど、やっぱり中学生ぐらいのころが一番見ていた時期でした。いまはいまで人気なんでしょうけれども、自分はあんまり。いろんな団体のファンを経て、会社員時代はアメリカのWWEとか、そっちを見ていましたね。
 私も格闘技や戦い方が好きで、アクションシーンは常に考えてやっているものですから、黒木さんのプロレス小説にはちょっと嫉妬を感じるというか(笑)。

◆今年ナンバーワン警察小説/ヤクザ版『地獄の黙示録』/「40歳からの恋愛白帯道」

黒木 僕の話ばかりしてもなんですから、先輩方おふたりの近況なども教えてください。

深町 いきなり、今度出る私の新刊の話になってしまうんですけど、いいですか。
 来週、新潮文庫から出る(7月30日発売)『ドッグ・メーカー』という作品があるんです。税抜840円です。警察組織の監察係という、要するに警官の不祥事を取り締まるやつですね。主人公は、たとえば児童ポルノをせっせと集めてるロリコン刑事とか、そういうやつの秘密をさぐっては、「こんなモン見られたらどうなるんだ」と首に縄をつけて、仲間の不祥事を売れ、と無理矢理、犬にするということで『ドッグ・メーカー』というんです。そういうことを仲間の警察官にやる、非道な監察官の活躍を描いております。首に縄をつけているうちに、巨大な警察組織の派閥争いに巻き込まれるという。新潮文庫が勝手に「今年の警察小説ナンバーワン」というコピーを、まだ何のランキングも出てないのに(笑)帯に書いております。

吉村 深町さんのツイッターにも書いてありましたね。「今年のナンバーワン」という話は。

深町 新潮文庫が頑張って推してくださるので、ありがたいことです。
 来月末には、KADOKAWAから『地獄の犬たち』という、恐縮ですが1600円ぐらいする本が出ます。これは一種の潜入捜査官もので、ヤクザ組織に潜っていく警官の物語です。ある一家の組長を、警察が「いっそのこと殺しちゃえ」となる。なぜ、警察がそんな非合法な手段をするのか、というのに一種の秘密があるんですけど、「真面目な刑事の俺がなぜ人をバラさなければならないのか」という、『地獄の黙示録』(1979年米国、フランシス・フォード・コッポラ監督、マーロン・ブランド主演)にも通じるものがあります。『地獄の黙示録』は、ベトナム戦争のさなかに、ジャングルの奥地で土着民族を支配する王国を作ってしまったカーツ大佐という人を暗殺しにいく映画なんですけど、そこからモチーフをいただいて「ヤクザ版・地獄の黙示録」という感じで書きました。この作品も、格闘シーンはえぐい描写が満載で、焼肉屋の金属の箸で目を突いたりとか、手を焼き網であぶって使えなくしたりとか、えぐいファイトを書いています。これでKADOKAWAもたいへん盛り上がってくれて、私の作家人生で初めてとなる、プルーフ本(本の発売前に、書評家や関係者に配布される見本)も作ってもらいました。ものすごく禍々しい表紙と、おどろおどろしい帯がついています。
 プルーフ一冊でもかなり高くなっているので、20冊くださいと適当に言ったら「13冊になりませんか」といわれまして。そのぐらい扱いが厳しいです。

吉村 そのうちウェブで特集サイトが組まれたりとか。

深町 できるといいですね。だからまあ、いまはプロモーションでインタビューとか対談とかさせてもらっていて、ちょっとヘロヘロではあるんですけど、ありがたいことです。

吉村 締め切りが終わってほっとしたのもつかの間、というお話をさっき聞きましたが。

深町 そうなんですよ。一昨日、対談のために上京したんですけど、担当者がプルーフをそっと出してきて「深町さん、改めて読んだんですけど……」と付箋がびっちり着いていて、さっきの講座でも言いましたが、語尾が「○○していた」がすごく続くのでなんとかしてくれませんか、と。「いつまで?」と言ったら「いつ帰るんですか」というので「いやあ明日帰るけど……」って言って、「じゃあ速攻で来週まで送ってください」というのがあってですね。それをさっき済ませたところで、もう来月発売なのにまだそんな粘り腰で迫ってくるんだ、と思わされました。それに加えて、販促用に電子書籍でショート・ショートを書いてもらえませんでしょうか、というのがあって。思ってもみないような依頼が、今月末までなんですけど、別の締め切りも抱えているし、それに10月にもまた新刊が出るものですから、その初校も手がけなければいけないので、いま「締め切り延ばせませんか」とあちこち交渉しているところです。

吉村 10月はどこから出るんですか?

深町 実業之日本社から『死は望むところ』というアクション警察小説です。ですので、去年も4冊出せて、今年も4冊出せます。去年は大藪春彦賞の最終候補まで残って、賞金500万を惜しくも逃したんですけど、今年もやはり候補になりたいなと思っております。とにかくタイトルホルダーになりたいんです。でっかいビッグネームになって、いいネーチャンと付き合いたい(笑)。俗っぽいですけど、根源的なのはそういうところですね。あんまり付き合いたいので、山形のタウン誌「zero23」で「40歳からの恋愛白帯道」というエッセイの連載をやっております。私は娯楽小説家なので警官とかアウトローの話を書いているんですけど、そちらでは実録です。多少盛ったりはしても、ちょっと私小説っぽいことをやってみたくて、自分の生活と、恋活動をいま必死に頑張っていることを書いています。ダイエットで8キロ減らしたりとか、そういうこともやっております。今年は作家13年目にして、まだ満ち足りていないという飢えと牙を隠しつつ、頑張っているという感じですかね。
 すみません、長々と自分の宣伝をしてしまって。

◆司会の職務とは(?)/作家に必要なのは「執念」/作品を通してわれわれを知ってほしい

黒木 ここにいらっしゃるみなさんは、作家志望の方が多かろうと先ほども申し上げましたが、これだけ徹夜続きで原稿書きとゲラに追われるとですね、もうろうとしつつも「自分の本を売らねば、ひとりでも多くの人に読んでもらわねば」という思いが先行してですね、司会の職務を放棄して自分の本を推すようになってしまうわけです(笑)。このトークショーが始まってから、ここまで40分ぐらいありましたが、僕がしゃべったのは10分ぐらいで、20分ぐらいは彼がしゃべっていますからね(笑)。

深町 えー嘘だよ。そんなことないよー。

黒木 ホントだよ。だって、3時45分からずっと君がしゃべってたんだぜ。もう4時すぎじゃないか。

深町 (時計を見る)あっ本当だ。……ごめん。

黒木 (笑)というようにですね、このぐらいの粘りであるとか、それでも食らいつくという部分は、もしかしたら作家に必要なのかもしれないな、ということですね。ひたすら世の中を呪うような言葉を吐き続ける彼を見つつ、その執念こそが作家になるために必要なのかな、と改めて思ったりもしました。
 もしかしたら今日は、もう少し、講座出身者としての立場から、僕たちの有意義な話を聞きたいな、プラスになることを言葉で知りたいな、と思った方がいらっしゃったかもしれませんけど、その辺はぜひ作品から読み取っていただければありがたいな、と思います。
 というのも、われわれはそれぞれがまったくもって違う作風でありまして、みなさんと同じように、それぞれの個性と考え方、思想を持って作品を書いていますので、今日ここでこのようにしゃべっていた3人が、どんなことを考えているか。人柄や言葉ではなく、ぜひ作品から感じていただけることが、書き手としては一番の幸福でありますから。

深町 そうですね、本当に。

黒木 もちろんこのようなトークが有意義でないとは言いません。そもそも我々自身がこの講座の卒業生ですからね(笑)。この場で学んだことも少なからずあるわけです。ただ、作者がこうして話す内容というのは、あくまでオマケのオマケ、余興のようなものです。まずは作品ありきですし、それをどう読み、どう感じ、どう考えるかは読み手の側にすべてゆだねられているわけで。ですから、本当に月並みな言葉になりますが、ぜひ一冊でも多く本を読んでいただき、ご自身の血肉にしていただくことが、小説家になるいちばんの近道かと思います。願わくば、その選書のなかに私たちの本があると、なおありがたいのですが(笑)。

深町 ありがとうございます。どっちが司会だか何だかよくわからなくなってきましたけど(笑)、吉村さん的にはどんな感じですか。

吉村 いま手がけているのは、デビュー第2作でヒグマと森林保安官が戦う『光る牙』(講談社文庫)の続篇ですね。シリーズ第2弾『オロマップ』が『隠された牙』というタイトルで講談社文庫に入って、今日も売っているんですが、その次の、シリーズ3作目をいま書いていて、年内に刊行できればと思っております。

深町 という感じで、続きは打ち上げの席上でお話でもできればと思います。

黒木 こんな話でお役に立てたかどうか心もとないですが、講座を経てこのように活躍している人間がいるんだよ、というその一点を励みにしてもらえればありがたいですね。というわけで、今日はみなさん、ご清聴ありがとうございました。

吉村 ありがとうございました。

(場内大拍手)

【講師プロフィール】
◆黒木あるじ(くろき・あるじ)氏
1976年、青森県弘前市生まれ。東北芸術工科大学卒業後、山形市内の映像会社に勤務し、県内の映像コンクールで賞をとる。本講座に出入りし、2009年『おまもり』で第7回ビーケーワン怪談大賞・佳作を受賞。同年『ささやき』が作家平山夢明氏の目にとまり、第1回『幽』怪談実話コンテストブンまわし賞(平山賞)を受賞し、10年『怪談実話 震』でデビューする。『怪談実話 痕』『怪談実話 無惨百物語 ゆるさない』『狂奇実話 穽』『全国怪談 オトリヨセ』など多数。

●怪談実話 無惨百物語 みちづれ (角川ホラー文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4041044642/

●怪談実話傑作選 弔 (竹書房文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06XSWFGTV/

●怪談実話 終  (竹書房文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4801910920/

●怪談実話 無惨百物語 ゆるさない (MF文庫ダ・ヴィンチ)
https://www.amazon.co.jp//dp/B00J4KD8JM/

●怪談実話 無惨百物語 にがさない((MF文庫ダ・ヴィンチ)
https://www.amazon.co.jp//dp/4840151059/

●怪談実話 無惨百物語 はなさない((MF文庫ダ・ヴィンチ)
https://www.amazon.co.jp//dp/4040667948/

●怪談実話 無惨百物語 ておくれ (角川ホラー文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4041030161/

●「渚にて あの日からの〈みちのく怪談〉」(荒蝦夷) 東北怪談同盟・編
https://honto.jp/netstore/pd-book_27985537.html

●怪談実話 震 (竹書房文庫)
http://7net.omni7.jp/detail/1102986252

●怪談実話 痕  (竹書房文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4812445175/

●怪談実話 叫  (竹書房文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4812448751/

●FKB怪談実話  累  (竹書房文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4812489113/

●FKB怪談実話  屍 【分冊版】『写霊』 怪談実話シリーズ  (竹書房)
https://www.amazon.co.jp//dp/B0746DBLLZ/

●怪談実話  畏  (竹書房ホラー文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4812494788/

●小説すばる3月号
https://www.amazon.co.jp//dp/B01N4WBPUF/
●小説すばる6月号
https://www.amazon.co.jp//dp/B072F26YPV/
●小説すばる8月号
https://www.amazon.co.jp//dp/B072F26YPV/

●ドッグメーカー 深町秋生著 (新潮文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4101209715/

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